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The PHP Foundationへの寄付を開始しました

こんにちは、うさみ(@tadsan)です。標記の通り、ピクシブ株式会社はThe PHP Foundation(@ThePHPF)への継続的な財政支援を開始しました。

opencollective.com

支援額は月間1000ドル、年間で12000ドルになる計画です。

PHPは言わずと知れたオープンソースのプログラミング言語処理系であり、誰もが無料で自由に利用できます。そのため、多くの個人ホームページ、ウェブサイト、百科事典、ゲームのAPIサーバー、広告システム、大規模な業務システムに至るまで世界中の多くのプログラムがPHPで稼動しています。

西暦2000年前後においてはLinux, Apache (HTTP Server), MySQL, P* (Perl, PHP, PythonなどPから始まるプログラミング言語)による構成はLAMPスタックと呼ばれ、無料のソフトウェアの組み合せによってサーバーを運用できることはインターネットの隆盛、とりわけ財政基盤に乏しい個人や、小規模事業者による参入を強く促すことになりました。

2005年に設立されたピクシブ株式会社も創業当初はWeb制作の受託を請け負っており、旧社名時代の社歌においては当時の代表が「使用言語はPHPで、データベースはMySQLで、できるだけオープンソースで」と謳っていました。

その時代から20年弱が経ち、現在となっては大企業やベンチャーと呼ばれた企業を含め、数多くの会社がPHP上で動作しているシステムによって安定した収益を得るようになり、PHPで開発することで給料や報酬を得ているプログラマーも世界中にいます。アメリカのホワイトハウスや日本の政府機関などもPHPを使っています。

プログラミング言語としてのPHPの開発は基本的に有志によるボランタリーによって支えられています。その一方で金銭的な負担は開発者自身の持ち出しか、一部の企業によるサーバー機材の提供などに留まっていました。PHPを使ってビジネスをしている人たちは数多く居ますが、PHP自体の開発者は無報酬であるという構図です。

現在、数値計算・科学計算・機械学習などの分野で注目され世界中で使われるようになったPythonですが全世界の圧倒的なユーザー数に見合う開発体制が整っていたとは言いがたく、2020年頃にマイクロソフトがPythonの高速化プロジェクト(Faster CPython)を支援するまでは抜本的なパフォーマンス改善に着手できませんでした。OpenSSLの脆弱性や近年ではlog4jの脆弱性などが社会的な影響として報じられる度に「IT産業はタダ働きのエンジニアに依存しすぎている - GIGAZINE」のように開発体制に注目されることはあっても、OSS業界の全体が抜本的に改善される傾向はいまのところ見られません。

さて、そのような情勢の中で2021年5月にJoe Watkinsさん(@krackjoe)が公開した記事が“Avoiding Busses”という記事です。

https://blog.krakjoe.ninja/2021/05/avoiding-busses.htmlblog.krakjoe.ninja

この記事では「何人のPHP開発者がバスに轢かれるとPHPの開発が継続不能になってしまうか」というバス係数トラック係数とも呼ばれる)が「2」であると述べています。PHPのソースコードにコミットできる権限を持ったメンバーは何十人と居るにも関わらず、Dmitry StogovとNikita Popovという2名が失なわれるとPHPの開発は続行できないというのです。この記事を書いているkrakjoe氏自身も経験豊かなコア貢献者であるにも関わらず、ここまで言わしめています。開発者にも人生があるし生計を立てる必要があるので、PHPを発展させるために必要な知識と熱量とモチベーションを自発的につぎこめる人間というのは限られます。

次いで2022年11月に公開されたのが“The New Life of PHP – The PHP Foundation”です。この記事を公開したJetBrains社はPhpStormの開発元であり、2019年からNikita PopovをPHP開発者として雇用していました。

blog.jetbrains.com

この記事では前述のkrakjoe氏の記事を引きつつ以下の事柄について述べています。

  • Nikita PopovがJetBrains社を退職してPHPでの活動を縮小し、活動の軸足をLLVMに移すこと
  • PHPで収益を得る複数の企業と協力してPHPの開発を支援する財団を創設すること

新しく創設された財団The PHP FoundationはPHP開発者を継続的に支援することにフォーカスしており、フルタイム開発者の雇用を目指し、現在は非常勤のコア開発者として6名を支援しています。

そのほかの背景についての詳細はインフィニットループ社の五十嵐さんによるインフィニットループは PHP の継続的な発展を目指す The PHP Foundation に寄付をしましたに詳しく紹介されています。

www.infiniteloop.co.jp

改めて2022年現在のピクシブ株式会社はイラスト、マンガ、小説作品の投稿プラットフォーム「pixiv」など社内のすべてのWebサービスはPHPやRuby、Go、Pythonなどフリーソフトウェアのプログラミング言語やOS・サーバーソフトウェア・ミドルウェアなどによって構築されています。弊社だけでなく、多くのWeb業界の企業ではそうでしょう。

「無料のソフトウェアだからタダで使い放題」なのではなく、その裏側には開発やメンテナンスに携わっている人間が居て、その多くは電気代に限らない多くのコストを手弁当で費しています。コミュニティとしてはこのようなエコシステムに献身する開発者や貢献者が報いられるよう、できること限りのことをやっていくことが長期的な持続性にも直結すると考えています。

金銭的な支援、コードの改善、バグ報告、ライブラリの公開、コミュニティへの知見の共有など、貢献にはいろいろなスタイルがありますが、末永くPHPバスツアーを楽しんでいきましょう 🚌

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tadsan
1989年生まれ。北海道砂川市出身。北海道工業大学を留年した後、札幌のSSL証明書リセラーでのアルバイトを経て2012年にピクシブ入社。pixiv運営本部 技術基盤チームリーダー、技術マネジメント室所属。WEB+DB PRESS連載、PHPカンファレンス登壇などでPHP開発の知見の普及に努める。2017年よりEmacs php-modeのリードメンテナーを引き継ぐ。