こんにちは、@f_subal です。普段はpixivFACTORYのプロダクトマネージャーとして、開発プロジェクトの進行や新グッズの導入などに関わっています。
さて、毎年4月10日は「フォントの日」です。去る2026年4月10日(金)、pixivFACTORYのグッズ編集画面(以下「エディタ」)で株式会社モリサワのフォントが新たに使用できるようになりました。

これは昨年2025年12月18日(木)に第1弾として フロップデザイン、タイプラボ、Google Fontsの書体を導入したのに続く、いわば第2弾リリースです(敬称略)。
もともと提供していたフォントワークスおよびMonotypeのフォントは12月時点で提供を終了しました。
今回のフォント入れ替えプロジェクトの背景には、昨今のMonotype社のフォント価格の改定があります。本稿ではこの情勢を受け、同様の課題に向き合うWebサービス運営者やゲーム開発者の皆さま向けに、導入に至るプロセスとその過程で検討したことをお話します。
この記事で話すこと
- pixivFACTORYはMonotypeとフォントワークスの二社と個別に契約をしていた
- 2025年3月にMonotype社がフォントワークスを買収したことで価格体系がグローバルに変更され、フォントの契約価格が年間で14.1倍になることが分かった
- 単純に特定の一社へ移行という選択肢もあったものの、ピクシブの強みであるクリエイターコミュニティを活かすことにした
- BOOTHで活躍するフォントクリエイター様とも組む形で「脱Monotype計画」を1年かけて進行した
- もともとのラインナップの良さを損なわないようできるだけ人気の書体に似ているものを選定した
- しかし多くのユーザーは単純にメニューの上の方にある書体を使う傾向も見られたため、「利用数=人気度」とは限らない点を加味した
- クリエイターが簡単にグッズのデザインができるサービスとしてのラインナップを無事に整えることができた
- 今後はもっと書体を選びやすくするための改善や、文字を活かした企画などもやっていきたいと考えている
元々のラインナップと入れ替えの決断
pixivFACTORYは2018年に「テキスト入力機能」として文字レイヤーをサポートするようになりました。
このときは、特にアニメの字幕や映像分野で人気の高いフォントワークスの書体群を主要なラインナップとしてリリースしました。 factory.pixiv.net
何度目かの契約更新を経て2025年、もともと二社と個別に行っていた契約は(Monotype社がフォントワークスを買収したことで)Monotypeとだけやりとりすれば良い状態になりました。
その際、先方の組織再編に伴い日本語フォントもグローバル基準の価格にすべて変更になることが判明しました。これについてはゲーム系メディアを中心に数多くの報道が出ていますので詳しくは触れません。 www.gamespark.jp
この時は交渉の結果、日本語書体と一部の欧文書体のみ、一年契約を継続しました。
そして契約を更新しなかった15個の欧文書体については2025年4月に先んじて廃止という判断になりました。 factory.pixiv.net
かくして2026年2月をタイムリミットとする、約1年のフォント移行プロジェクトが始まりました。
現状のフォント利用を観察する
書体ラインナップを検討するとき、プロダクトマネージャーとしてまずやったのは今何がどれくらい使われているかの整理でした。
幸い、エディタ上の利用状況をランキングとして把握できるのでそちらを参考にしました(これにより、はじめてフォントを導入したときに比べて格段に判断がスムーズでした)。

このランキングを観察し、以下のような仮説を考えました。
- フォントメニューの1番上にあるデフォルトの書体(ここでいう
秀英初号明朝)が大差をつけて1位になっている。一定数のユーザーは文字を使うときフォントを選んでいない - 2位以降は(ふつうのゴシックや明朝より)装飾書体の割合が多い。ゴシックや明朝のラインナップが充実しててもみんなあまり区別できず、単に目立つ書体を選ぶ
- 細いフォントと太いフォントはみんな見分けることはできるが、細いフォント同士(たとえば「ロダンNTLG Pro L」と「ロダンハッピー Pro L」)の区別はされにくい。上位が太い書体に偏ってるのはこれのせいかもしれない
- 同じフォントでもウエイトごとに明確な利用数の差がある。「全体を同じフォントの太さ違いで統一するとキレイ」とかはそんなに重視されないように見える
我々が最初にフォントを導入した際、イラストと合わせやすいかわいいフォントはもちろんですが、正統派の書体にもある程度良いものを選んでいました(たとえば欧文書体としてFrutigerやNeue Haas Groteskなど、有名な正統派サンセリフも提供していました)。
しかし今回のデータから見えてきたのは、「敢えてグッズのデザインに選ばれる書体」はある程度の傾向がある(装飾的な形状で、ある程度の太さがある)ということでした。
結果、新ラインナップではゴシックと明朝体はフリーフォントであるNotoフォントにし、丸ゴシック・手書き・装飾書体に予算の多くを割くという判断がなされることとなりました(正統派よりも個性派にお金を割く)。
これにより、需要面でも費用面でも、ラインナップを最適化するための指針が得られたと思います。*1
導入するフォントを選ぶ
ピクシブが運営するECサービス「BOOTH」では個人クリエイターの方によるフォントが数多く販売されています。
当初、BOOTH上のフォントクリエイター様に声がけするだけで十分な書体が提供できるのではという考えもありました。 とはいえ、数十個のフォントを確保しようと考えると、かなり多くの方にお声がけしないと十分に揃えるのは難しいことも分かりました。
(当初の案ではAさんから3書体、Bさんから5書体……みたいな細かい買い方を考えていましたが、管理しきれなくなりそうなので今回はやめました)
そこで検討の結果、商用サービスを含む以下の4つの提供元を採用する判断をしました(敬称略)。
- Google Fonts
- とりあえず正統派の日本語フォントと、欧文書体の大半はここで揃えることとしました
- 日本語のゴシックや明朝はNotoフォント、欧文書体は廃止予定のMonotype書体の代替になるものを中心に採用しました
- タイプラボ
- BOOTHでも活躍されている老舗の個人フォントクリエイター様です。ニタラゴ、ルイカ、えれがんとなど有名書体の提供で知られています
- 今回は主に丸ゴシックと手書きフォントを採用させていただきました。漢字の充実したフリーの丸ゴシックは実は非常に少ないので、この枠をタイプラボフォントで固める判断をしました
- フロップデザイン
- こちらもBOOTHでご活躍されている老舗の個人フォントクリエイター様です。「フォント物語」など、装飾の強い書体をたくさん販売されています
- 主に装飾の強いフォント、また一見ふつうのゴシックや明朝だけど置くだけで絵になるような(アクセントの強い)ものを選びました
- 株式会社モリサワ
- 言わずとしれた日本語フォントの有名企業です。新ゴ、リュウミンなど日本のあらゆる印刷物で目にする書体を提供しています
- ただし今回はスタンダードな書体より、敢えてモリサワフォントの中でも近年の新書体を中心にセレクトしました。これはイラスト文化や推し活と相性の良い字だったり、pixivFACTORYの人気書体を代替するのにふさわしいものに寄せた結果でした
- またモリサワ初の和文バリアブルフォント*2「DriveFlux」も今回採用し、pixivFACTORY向けにあらかじめ各軸の値が設定された7スタイルをご用意しています
契約は同時並行で進めていましたが、旧書体のタイムリミットがあったため、先に1〜3の書体を第1弾、モリサワフォントを第2弾としてリリースする段取りになりました。
実装上困難だったポイント
リリースにあたっては、新書体の追加実装はもちろん、旧書体を使ったユーザーのデザインがその後もグッズとして製造し続けられるよう保全することも必要でした。
我々は最初に一部の欧文書体を廃止した際、まだ注文されたことがないグッズも含めて廃止フォントを使った原稿をすべてラスタライズするスクリプトを用意しました。
これにより(フォント廃止後にデザインを編集していない限りは)旧フォントを使ったグッズが今でもpixivFACTORY/BOOTH上で引き続き買えるようになっています。
Monotypeとの契約終了が2月末であるのに対して旧フォントの廃止は12月に行われましたが、それはこの原稿保全の時間を稼ぐためでした。無事に進行して良かったです。
また、pixivFACTORYではエディタ向けにサブセット化されたフォントを配信するサーバーを自社で開発しています(詳しくは以下の記事をご覧ください)。 inside.pixiv.blog
内部ではfonttoolsというPython製のツールを使用しており、通常はこれでサブセット化を行うだけで大丈夫です。しかし今回は新たにバリアブルフォントであるDriveFluxを導入したため、サブセット化に加えて必要なウエイトをインスタンス化する処理を追加しました。
以下のような形でパラメータを与えることで、特定の太さ・特定の角度で指定されたDriveFluxのインスタンス(ウエイト900、スムースネス0、コントラスト85、イタリック-8)を生成できます。*3
$ fonttools varLib.instancer DriveFlux-VF.otf \
wght=900 SMTH=0 CNTR=85 slnt=-8 \
-o DriveFlux-900-0-85--8.otf --static --downgrade-cff2 # opentype.jsで読めるように--downgrade-cff2を追加
このような実装を経て、第1弾・第2弾のフォントがリリースされました。
おわりに——リリースの振り返りとこれから
このような長いプロジェクトを経て、pixivFACTORYは和文欧文合計で82ウエイトを提供するグッズサービスとなりました。
実はこれは元の提供数よりも減っているのですが、現代のクリエイター・オタク向けのデザインサービスとしてより適したラインナップに生まれ変わることができたと思います。
そして4月10日「フォントの日」のリリースを記念して、モリサワ公式Instagramアカウントでグッズのプレゼントキャンペーンを開催したり、pixivFACTORYのサイト上でもデザインをシェアして景品が当たるキャンペーンを開催しました。 factory.pixiv.net
今後も文字を活かした企画を開催したり、よりフォントを選びやすくするための改善などを続けていければと思います!
最後に今回、書体提供と告知でご協力いただいた株式会社モリサワの皆さま、フロップデザインのカトウマサシ様、有限会社タイプラボの佐藤豊様をはじめ関係者の皆様に深くお礼を申し上げます。
*1:書体好きとしてはたとえば欧文のサンセリフと和文のゴシックをうまく使い分けてほしい気持ちもありますが、そういう人はそもそも自分で書体を買ってIllustratorでデザインをするでしょう。Web上のデザインツールはもっと初心者のデフォルト感に寄り添うべきと判断しました。
*2:複数の可変軸(パラメータ)を変えることにより、ひとつの書体でいろいろな太さや形状を表現できるOpenTypeの機能ないしそれを使用したフォントのことをバリアブルフォントと呼びます( https://www.morisawa.co.jp/culture/dictionary/15410 )。Adobe製品のようにスライダーを用いて可変軸の値を変え放題にしているソフトも多いですが、今回pixivFACTORYではあくまで決まったウエイトから選択するUIを踏襲しました。
*3:ただしバリアブルフォントを静的なCFFベースのOpenTypeに変換すると、Windows環境においてパスの重なりが白抜きとして表示されてしまうケースがありました。この問題はfonttoolsのremoveOverlapsという関数を用いることで解決できます。
