2024年夏、あるアニメーション制作会社から「武者修行」としてエンジニア出向受け入れを行いました。業界的に類似点はあるとはいえ、事業内容も組織文化も異なる環境で1年間挑戦いただきました。
この取り組みは、受け入れたピクシブに、そして武者修行に挑んだエンジニアに何をもたらしたのでしょうか。
本企画のピクシブ側仕掛け人であるプロダクト開発ギルド長のbashから、武者修行を終えたエンジニアのmamaguroさんとアサイン先決定の判断や受け入れ期間中の対応を担当したVPoEのkonyaさんに、1年間のふりかえりインタビューを行いました。異文化交流から見えてきた、それぞれの組織の強みと、アニメーション制作業界・テック業界をまたぐこれからのエンジニアリングの可能性に迫ります。
自己紹介
mamaguro: 2019年に新卒でアニメーション制作会社に入社。制作進行業務に携わる傍ら、社内業務の自動化を目的にPythonを用いたプログラミングを独学で習得しました。
進行管理の効率化のため、Web系の技術(Reactなど)を取り入れ、社内向けのWebアプリケーション開発も行ってきました。今回、Web技術の利用という点で親和性が高いことから、自身の技術力を高める絶好の機会と捉え、挑戦を決意しました。
konya: 2007年にピクシブに中途入社し、pixivの立ち上げをはじめとする様々なプロダクトに関わってきました。ネットワークからWebサーバー、アプリケーション開発まで一気通貫で支えてきました。
2020年からはVPoEに就任し、エンジニア組織として採用・育成・評価を同じメンタルモデルで強化する取り組みを主導してきました。今回の取り組みにも、そのエンジニア組織活動の一環として参画しています。
bash: 2013年にピクシブに中途入社し、最近は事業横断での開発者強化活動をとりまとめています。
開発を専ら担うプロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアについて、それぞれの専門職組織と社内の開発メンバーと社外の開発者や学生、有志コミュニティとを繋ぐDeveloper Relationを管轄しています。
mamaguroさんの上司の方とはシステム管理者コミュニティーで仲良くさせてもらっており、そのご縁でこのお話をいただきました。面白い取り組みと感じ、ピクシブ側の受け入れを取り仕切らせていただきました。
「通用するのか?」期待と不安の幕開け
bash: まずはmamaguroさん、1年間お疲れ様でした。最初に現職上司の方からこの武者修行の話を聞いた時、率直にどんな気持ちでしたか?
mamaguro:「楽しみ」半分、「自分はどれぐらいできるんだろう?」という気持ちが半分、でしたね。新卒で現職のアニメーション制作会社に入ったため、いわゆるテック企業の業務は未経験でした。そのため、培ってきたスキルが本当に通用するのか未知数でした。何が起こるか全く想像がつかなかったです。
bash: そんな中で、ピクシブに対してどんな期待を抱いていましたか?
mamaguro:以前からピクシブさんの技術ブログでNext.js移行の記事などを読んでいたので、そこで語られている技術が、実際のサービスでどのように使われているのかをこの目で見られる、という期待は大きかったです。大規模サービスのデータがどう管理されているのか、タスクマネジメントやコードレビューがどんな雰囲気で行われているのか、いわゆる「エンジニア文化」がどう回っているのかを肌で感じたいと思っていました。
受け入れ側の本音「実は心配でいっぱいだった」
bash: 受け入れ側だったkonyaさんは、私からこの話を持ちかけられた時、どう思いましたか?
konya: 正直に言うと、心配でいっぱいでした(笑)。エンジニア組織全体を見る立場として、mamaguroさんにとって最適な環境を用意できるか不安でした。せっかく来ていただくのに成果に結びつかなかったらどうしよう、と。失敗できないというプレッシャーがありました。
bash: チーム配置はかなり悩みましたよね。
konya: はい。ピクシブは「1チーム1プロダクト」のためチーム数が多く、選択肢が豊富です。どのチームならmamaguroさんが良い経験を積めるか、いくつも候補を挙げてbashさんと検討しました。ユーザーに近いプロダクトチームもあれば、インフラやアカウント基盤のような下支えするチームもあります。それぞれ違った学びができる中で、最終的に管理システムチームに決めました。多くのプロダクトと連携していて、外からは見えにくい重要な学びが得られるはずと考えたからです。もちろん、チームにメンター役ができる経験豊富なエンジニアが所属していることも決め手でした。
bash: ピクシブ側からの期待もありましたか?
konya: もちろん、我々にとっても学びは多いだろうと期待していました。アニメーション制作業界とテック業界、近いようで仕事の進め方は違うはずです。そのギャップをどう埋め、ピクシブでの学びをどう応用してもらえるか。それは、我々のやり方が独りよがりな「ガラパゴス化」していないかの検証にも繋がると考えていました。一方で、アニメーション制作に携わる方とご一緒できることが純粋に楽しみでもありましたね。
「コードを書く以外、すべてが違う」文化の衝撃
bash: 実際にピクシブで働いてみて、現職の会社と比べどんな違いを感じましたか?
mamaguro:「コードを書いている」という行為以外、すべてが異なりました。 良い意味で、何もかもが違うんです。ツールは同じでも使われ方が全く異なりましたし、特にコミュニケーション文化の違いには衝撃を受けました。
bash: 特に衝撃的だったコミュニケーション文化はどんなことですか?
mamaguro:Slackを通したコミュニケーションのレスポンス速度ですね。フルリモートのメンバーも多いのに、みんな反応が速くて驚きました。また、「ちょっと話せますか?」と誰かが声を上げると、すぐにGoogle MeetやSlack ハドルでボイスチャットが始まります。ペアプロやモブプロといった共同作業への心理的な障壁が全くないんです。
この安心感が根底にあるからこそ、自分の担当外のチャンネルでも「これはこうすれば解決できるかも」と、誰かが自然に助け舟を出す場面が多いですよね。仕事の話でDMが使われることはほとんどなく、オープンなチャンネルで議論が進んでいくのが特徴的でした。たとえミーティングなどの閉じた場で話した内容でも、その後きちんと皆に見えるところで共有される、この文化には本当に驚きましたし、仕事がしやすいと感じる大きな要因でした。
「想像を遥かに超えた」活躍と、見えてきた成長のサイクル
bash: そんなmamaguroさんを、konyaさんはどう見ていましたか?
konya: 想像を遥かに超えて高い能力をお持ちの方でした。ちょうど1ヶ月目の面談の時に、システムの足回りの複雑なタスクに取り組む姿を見て「この人はすごいぞ」と実感しましたね。言われたことをやるだけでなく、能動的に自分で調べ、学んだことをすぐにスキルとして実践で活かしていく。まさにピクシブが理想とするスキルを持つエンジニアだな、と感心しました。。
bash: 実はエンジニア職の横断評価であるプロセス評価の場でも、「今の仕事はmamaguroさんにとって役不足なのでは?」という声が上がったほどでした。
konya: それに加えて、mamaguroさんは「内省」がきちんとできる点も素晴らしかったです。「吸収→スキル化→実践→内省」という成長のサイクルを自然に回して、自分のやったことを客観的に振り返り、次につなげることができるんです。これは、成長し続けるエンジニアとして非常に望ましい資質です。当初の心配は完全に杞憂で、3ヶ月も経つ頃には、開発だけでなく、もっとピクシブの文化全体に触れてほしいと思うようになっていました。
「仕事が楽しい」の源泉は、人と文化にあった
bash: konyaさんの話を聞いて、mamaguroさんはどう感じますか?
mamaguro:僕個人としては、純粋に「面白いことをずっとやっていた」という感覚なんです。画面の改修一つとっても、その画面を使う社内ユーザーであるビジネスメンバーが、直接「便利になった」「ありがとう」と感謝を伝えてくれることが多いんですが、これが本当に嬉しいし楽しかったですね。
bash: 「面白いことをずっとやっていた」という感覚は、ピクシブの環境も大きかったですか?
mamaguro:間違いないです。レスポンスが速く、いつでも誰にでも相談できる環境があったからこそ、巨大なコードベースの構造を紐解くような難しいタスクも楽しく進められました。他にも、趣味に関する情報交換や、アルバイトメンバーの評価に関わる機会、社内ラジオへの参加、社内交流機会「#P-HUB」(https://inside.pixiv.blog/2025/02/06/173000)への参加など様々な体験をさせて頂きました。仕事だけに閉じていたら、ここまで深くピクシブを知ることはできなかったと思います。
ピクシブで働くことは、単なる「仕事」を超えた特殊な体験でした。社員のみなさんが、仕事やプライベートを問わず、何かしらの「will(意志)」を持っていると感じました。それが担当業務に限らず、部活動のような社内コミュニティZ活動などを通じて伝播し、お互いの人生を豊かにしていると思います。例えば誰かがバイクの免許を取れば触発されて別の誰かが免許を取ったり、ウイスキー好きが高じて社外のコミュニティまで繋がりが広がっていくとように、「人生のエコシステム」とでも言うべきものがあると感じました。仕事を頑張るために趣味を充実させ、趣味を楽しむためにお金を稼ぐというその好循環が、組織全体の活力になっているという印象を受けました。
業界の壁を越えて伝えたいこと、貢献できること
bash: 最後に、mamaguroさんからアニメーション制作業界で働く同業者の方々へ伝えたいことはありますか?
mamaguro:アニメーション制作業界には、歴史的な経緯からくる特有の慣習がレガシーとしてたくさん存在しています。その良いところを活かしつつ、最適なあり方に変えていくには、コードを書く技術だけでは足りません。実装よりも難しいのは、人と組織を、そして業界の仕組み全体をエンジニアリングすることだと、この1年の経験を経て確信しました。ピクシブの事業・業務が多くの人たちの関わりの中で高度にシステム化されているように、人間が効果的に動くための仕組みを、技術に閉じずに考える視点が重要だと思います。
bash: たしかにコンピューターの中に留まらない、広義のシステムを構築していきたいですね。konyaさんは、今回の経験を経て、ピクシブとして業界を超えて貢献できそうなことは何だと感じますか?
konya: 我々が長年培ってきた、エンジニアの成長や評価を支える仕組みは、テック業界だけでなく、もっと広い世界に貢献できる可能性があると感じました。また、mamaguroさんの話を聞いて、我々が当たり前だと思っていた「レスポンスの速さ」や「共有文化」が、実は大きな強みであると再認識させられました。
ピクシブが掲げるMVVのうちVALUEのひとつに、「With Open Minds 多様な好きを受け容れよう。」というものがあります。だからこそ、誰もが自分の「好き」をオープンにでき、それが心理的安全性に繋がっていると感じます。こうした互助や贈与の文化を、業界の垣根を越えて広げていくことができれば、もっと多くの人が楽しく働ける世界を作れるかもしれませんね。
bash: お二人とも、本日はありがとうございました。この武者修行が、両社にとって、そして業界全体にとって、新たな可能性の扉を開く一歩となることを期待しています。