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TVCMでもネット広告でもない、アプリを知ってもらうためにやったある作戦の裏側 ─ pixiv Night #1 レポート

2016年の年末。ピクシブでは、少し変わったプロジェクトが動いていました。その名も「みんなのpixivコミックストア」。期間限定で、ネット上にゲームを公開するプロジェクトです。

サービス作りをしている会社が、あえてゲーム作りをする。何のノウハウもない組織が、ゲームを作るという決断を下した理由は何か? 現場にどんな工夫があったのか?2017年1月26日に開催されたイベント「pixiv Night! #01」 内のセッションより、掻い摘んでご紹介します。

きっかけは、ネット上を盛り上げるという企画だった

清水智雄と申します。みんなには「のりお」と呼ばれています。

普段は「pixiv Sketch」のプロダクトマネージャーをやっています。僕は、新規開発プロジェクトのプロダクトマネージャーをやることが多くて、クリエイター向けECサービスの「BOOTH」や、グッズ制作サービスの「pixivFACTORY」とか、ネット音楽同人イベントの「APOLLO」などを立ち上げてきました。

今回の「みんなのpixivコミックストア」でも、プロジェクトの立ち上げ、企画からプロトタイプ開発、UIデザインやディレクターといった立場で関わりました。なので、今日は僕からはみなさんに、「みんストはなぜ生まれたのか?」という話をします。 みんスト誕生のきっかけは、テレビCMです。pixivコミックのテレビCMを、年末年始に放送するぞ! ということで、当時社長だった片桐から「年末年始、テレビもネットも、pixiv祭り状態にしたいんだよね!」と。そして僕に、「ネットをお祭り状態にしてほしい」という話がきました。

ピクシブでプロダクトが立ち上がるきっかけは、トップダウンとボトムアップの2パターンあります。経営層などからトップダウンで「こうやりたい!」という考えが飛んでくるときは、現場から提案をだしていくようなボトムアップの時とは違い、ふわっとした目標だけが与えられることが多いです。具体的なところは、僕ら現場の人間に任されることになるんですね。

ただ、さすがに今回はもっと話を聞いて、イメージを固めていく必要があると思ったので、「祭りって?」とか「どういうノリ?」などを、片桐にヒアリングしました。そしたら、テレビCM自体はpixivコミックだけど、このお祭りはpixivコミックに限った話じゃなく、とにかく「pixiv関連・周辺が盛り上がってる状態にしたい」と。

より一層、道筋が見えなくなりました!

── 会場(笑)

もうここからは、自分たちで情報整理をして、道を切り開くしかない。そもそも「ネット上が盛り上がるとは?」について、僕なりに考えてみました。これは定義次第で、いろんな可能性がうまれると思うんですけど、僕はこう定義しました。 「SNSで話題になること。」

Twitterとか、Facebookとか、色んな人がそのことについて呟いている。コメントしている。シェアされまくってる状態というのが、ネット上で盛り上がっている状態ではないかと。

短期間のお祭り状態の間、シェアしたくなるものが常にある状態を作れたらいいんだと。そしてシェアしたくなるものって、誰かに共感してもらいたいもの、おすすめしたいものがある状態じゃないか、って考えたんですね。

SNSも色々ありまして、それぞれが違う特性を持っていたりします。今回はpixivユーザーと相性の良いTwitterに限定し、Twitter上でシェアされるようなものを作ってみようと考えました。では、Twitterでシェアされるものってなにがあるでしょう?

色々ありますけど、僕は「診断メーカー」に目をつけました。診断メーカーは、Twitter上の情報を元に、自動生成される何かです。初期の診断メーカーは、ほとんどTwitter上の情報を使っていなかったですけど、最近のはTwitter上の情報を元に、何かしらのネタを生成して、シェアできるのが流行っています。

「Twitterでシェアされたいのであれば、Twitter上の情報を元に自動生成」これがいいんじゃないか、って考えたんですね。あと、個人的に今までやりたくてもやれていなかったアイデアの中に打って付けのものがありました。

「Twitterの情報を元に、自動生成されるゲーム!」

ただ盛り上げるだけでなく、pixivコミックを知ってもらうきっかけに

さて、どんなゲームにしようか。片桐の考えとしては、「べつにpixivコミックじゃなくていい」ということでしたけど、僕はあえてpixivコミックと絡めたいな、って考えました。

「pixivコミック」というのは、名前の通りマンガのアプリでして。年末年始には、このお祭りの中で、テレビCMやネット広告などでガンガン発信され、今まで以上に多くの人に知ってもらえるはずなんですね。

ただ、ネット上のお祭りである今回の企画でも、ちゃんと盛り上がれば、テレビCMやネット広告を見ない層にも、知ってもらえるきっかけになるんじゃないかと思ったんです。Twitter上で、pixivコミックを知らない人たちにリーチできるんじゃないかって。pixivコミックを知ってもらうきっかけを自分たちもつくりたいと。 で、pixivコミックのマンガ、本といったコンテンツと絡めるなら、本屋さんのシミュレーションゲームにすればいいんじゃないかって、シンプルに考えてみました。あまりpixivのコンテキストを強めないで、店員とか、お客さんとかを、あくまでTwitter上の情報を元に面白おかしく自動生成する、ツッコミどころ満載の本屋さんのシミュレーションゲームにできればいいんじゃないかと。

そして、本屋さんにマンガを置くためには、Twitterでゲーム画面をシェアするか、実際にpixivコミックで本を読む必要があるようにすれば、たくさんシェアされて、多くの人にpixivコミックの作品を読んでもらえるのでは、と考えたんです。

これはいける!!と思いました。

そこからは体制を整えて、プロトタイプを作って、開発へと続きます。結果として、年末年始の2週間で32,000人にプレイされ、約172,000シェア。一人あたり5回ぐらいシェアされるゲームになりました。マンガの読了数は、185,000回ということで、一人あたり6作品ほど読んで頂けました。

社内に創作活動をしている人が多いから、ゲーム作りの要員を集められた

ふろしき(司会) : ここからは、パネルディスカッションという形で、2ヶ月弱でゲームを作り上げた開発現場の内側に迫ってみたいとおもいます。ピクシブは本名でなくニックネームで呼び合う文化がありまして、私は社内で「ふろしき」と呼ばれています。さて、一番左のうなぎさんから、順番に自己紹介を。

うなぎ(ディレクター) : うなぎといいます。私は普段、開発部のマネージャーをやっています。前職で、ゲームの下請けをしている会社のプログラマーをやっていたので、作り方のいろはは知っていました。今の会社では、そもそもゲームを作る経験が無かったので、急遽ヘルプに入り、ディレクターとしてゲームを完成させられるよう導いていました。

…ただ、この会社。普段はWebのサービスとかアプリばっかり作ってるのに、社内でグラフィッカーとかサウンドコンポーザーとか、ゲームプログラマーとかプランナーとか、ゲーム開発に必要な要員が全部そろっちゃうんですよね。

ピクシブの社員ってプライベートで創作活動をしている人が結構いるんですよ。それこそプロレベルの人も。私は元々、コンシューマーゲーム出身なので、オンラインゲームを作るというのは初めてなんですけど。ただ、私自身もプライベートで同人ゲームサークルの主催していたので、ゲームを作る作業も手に馴染んでいました。

じゃぎー(レベルデザイン) : じゃぎーです。僕は普段は、ディレクターでして、イラストSNS「pixiv」で、ユーザー行動分析などをして、閲覧者や投稿者が増えるような仕掛けなどを考えています。今回のプロジェクトでは、レベルデザインが必要ということで、急遽呼ばれました。

会場の皆さんは、僕が「分析で鍛えられて、数値に関する感覚があるから選ばれた」って答えを期待しているのでしょうけど。…実際のところは、うなぎさんのゲームサークルで、レベルデザインをしていて、その腕を買われたという感じです。パラメーターを調整して、ゲームとして成立させる仕事をしてました。 ふろしき : 創作活動が、完全に本業になってるじゃないですか(笑)。

かーびー(ディレクター補佐) : かーびーです。わたしは企画志望の2016年度新入社員です。

ピクシブで、こういう期間限定の企画をやるのって、今回が初めてじゃなくて、前から結構やってきていたんですね。イラストSNS「pixiv」の2,000万ユーザー特別企画「黒歴史 LAUNCHER」や、対話型人工知能PROJECT Samantha「罵倒少女」など。こういう企画に、私は関わっていました。

のりお(企画) : のりおです。さきほどでも発表した通りで、企画とか、UIデザインとか、ディレクションをやっていました。

最初から面白くなるとは思っていなかった→プロトタイプで面白くなるように調整した

ふろしき : では、このメンバーに聞きたいんですけど、最初企画が走り出した時、このゲーム、面白くなるって思いましたか?

のりお : 企画のコンセプト自体は、自分でもびっくりするぐらい面白いとおもいましたね。思いついたときは、自分ぶっちゃけ、天才かなって(笑)

── 会場(笑)

ただ、コンセプトはいいけど、最終的なアウトプットの質がどんなものになるかは、最初の段階では全くみえませんでした。コンセプトイメージも、どこまで実現されるかわからない。実現できたとして、それがゲームとして面白いのかどうかも、この段階ではわからなかったです。

ふろしき : ゲームなのに、ゲームが面白くなるかわからない。すごい状態ですね。

うなぎ : 大変でしたね。リリース日もこの段階で決まってましたし。それでもって、一定のクオリティが求められていますからね。 かーびー : わたしも最初はちょっと、うーん、大丈夫かなって思ってました(笑)。ただ、今回プロトタイプを何回も作って、ブラッシュアップしてくように進めていったんですけど、何回かプロトタイプが出て、そこではじめて「あっ、これ面白いかも」って思いました。

うなぎ : 最初のプロトタイプは面白くないものができるのはわかっていました。最低限の必要な機能だけを入れた30%の完成度を目指したからです。2回目に機能を一通りいれて60%のモノができる。この段階でようやくユーザがプレイする体験に近くなるのでバランス調整やアイディアの発展ができるようになった。ここから魂をこめて80%を目指す。狙いどおり60%から80%を目指す課程でやっとゲームは面白くなった。

ふろしき : プロトタイプが要だったと。

じゃぎー : そうですね。

ふろしき : で、プロトタイプの話ばかりになってますけど、実際にコード書き始めたのっていつなんです?

のりお : 10月中はぼくが技術検証用のプロトタイプを作っていたので、ゲームのコードをみんなで書き始めたのは11月6日からです。そして12月26日にリリースみたいな感じです。

ふろしき : えっ、2ヶ月切ってますよ(笑)。1ヶ月半じゃないですか。

2ヶ月半で、企画からリリースにまで進められた理由は?→現場に多くの判断を委ねたこと

ふろしき : この短期間でゲーム完成したのって、ピクシブらしい開発スタイルが活きたからだと思ってて。トップダウンで仕様が決まっていく感じとかなくて。上流/下流みたいなのとか、ディレクターとエンジニアだとか、そういうのでバチっと役割を分けてしまう感じとかなく。

全員がプロダクトの仕様に踏み込んで考えられるサービスクリエーター気質があったからこそ、スピード感もあり、クオリティも底上げできたと思うんです。 のりお : はい。そういうのがあるからこそ、ディレクター側である程度のところまでは決めて、それをもっと具体化して実装するのをエンジニアにお任せする、という作業フローが機能したと思ってます。

しかも、僕たちが想像していたより、もっといいアイデアと実装で上がってくることが多くて。現場の作業者が多くの判断を握ることで上手くまわせたってのは確かにあります。

ふろしき : けど、それってとてもコントロールが難しいことだと思うんです。コード書くぐらいのレベルの現場にまでなると、自分の身の回りにばかりを気を取られるというか、全体からみてよくない選択をしたりとか、プライオリティが低いところに気を取られたりとか。

特にゲームって、ネット系のサービスに比べると、その時その時で判断が求められる選択肢の数は膨大ですよね? 限られた人間が判断することで、正しい方向に進むということもあると思うんです。判断する人が分散するって、舵がない船みたいになってしまいますよね。

うなぎ : 今回、その対策として、自分たちは守るべき4箇条ってのを作ったんです。現場の人間が常に、正しい判断を行える状態を作るための。

  • 全てはシェアのために。迷ったらSNSでシェアされる方を選ぶ
  • 12月末のリリースに間に合うやり方を選ぶ
  • ゲームとして普通に面白くなる方を選ぶ
  • 自分たち自身が開発をたのしめる方を選ぶ

この4箇条を、我々は徹底していい続けてて。だからこそ、現場も判断がブレなくって。

かーびー : それでいうと、ちょっと面白いエピソードがありまして。

私がTwitter上で宣伝するための文言を作って、Slack上でうなぎさんとかにレビューしてもらってたんですね。そしたら、ツッコミがエンジニア側から飛んできたんです。しかも、すごく良くなったっていう。ディレクターとかエンジニアとか関係なく、モノ言い合える関係にあるんですよ。

あと、私は新卒なんだけど、そういうのあんまり関係なく、ズバズバ言えるんです。「は? それって微妙じゃないですか?」って。改めて昨日思い返してみて、私ちょっといいすぎじゃないって思ったぐらい、結構色々言ってるんですよね(笑)。

4箇条が正義だからこそ、そこに変な上下関係とかも持ち込まれなくなるんです。まぁただ、これはどちらかといえば、ピクシブっていう会社の空気が、そうさせてくれているというところがあると思うんですが。

ゲーム作りとサービス作り、ここが違う。

ふろしき : 我々が普段作ってるサービスと、ゲームで、大きくここが違う! って感じた所ありますか?

のりお : サービスはユーザー同士が楽しめるように作るんですけど。ゲームって、自分たち作ってる側からユーザーを楽しませるんですよね。そこが大きく違う。それに、サービスは出来る限りシンプルに、無駄を削ぎ落とすように作るのが主流ですけど、ゲームはコンテンツを増やせば増やすほどたのしめる、という側面がありますよね。

ふろしき : じゃぎーさんみたいな、ユーザーの行動分析して、施策考えたりみたいなことをやってる人って、結果に対する見え方とか違うって一番体感するんじゃないですか。

じゃぎー : サービスを作っていると、機能を追加するにしても、一度はユーザーさんを介さないといけない。それこそSNSのpixivだったら、クリエイターさんの投稿とかあって、コンテンツがでてきて、リアクションなんかもあって、そのあとで結果が体験できるってところがある。

ところが、ゲームって、作ってすぐダイレクトに自分へ体験がやってくるんですよ。そういう意味での距離が、すごく近く感じましたね。 のりお : ゲームを作ってみて、衝撃的だったことがあるんです。ゲームを作っている人にだけ得られて、サービスを作っている人には絶対に得られないことってのがあるんですよ。それがね、ゲーム実況動画です。

ゲーム実況。あんな風に、自分たちが作ったもので楽しんでいる様子を、動画でこと細かく解説つきでみせてくれるなんてなかなかないですよ。サービスだったら、専用のユーザビリティ調査とかやってる会社に頼まないと、でてこない! 実況動画は、僕たち、めっちゃ見てたからね。あれはもうね、感動だった。

ふろしき : のりおさん、本当に嬉しそうでしたよね。このままゲーム会社に転職してしまうんじゃないですか。やめてくださいよ(笑)。

次回は、3月14日(火)に開催します

▼ ピクシブのエンジニアが、画像処理について語ります。ぜひ、ご参加下さい!

https://pixiv.connpass.com/event/50284/

また、ピクシブでは、クリエイターの作品を一人でも多くの人に届けるため、今までやってこなかったことにもチャレンジしていける、そんなプロダクトマネージャー・ディレクターを募集しています!

ぜひ、エントリーしてください!

ピクシブ株式会社
「創作活動を、もっと楽しくする。」 クリエイターに、創作活動やファンとのコミュニケーションを楽しんでもらいたい 世の中のクリエイターの創作活動を支え、創作文化を刺激していきたい そんな想いで、私たちピクシブは世界中の人々の創作活動を支える事業を行っています。