イラストレーター出身で、Webディレクターとして活動しているbanikuさん。その異色な経歴を活かし、イラスト学習サービス「sensei by pixiv」の立ち上げと運営に関わっています。
そんな彼に、イラスト学習の現状と今後について、過去の経験談を交えながらお話を聞かせていただきます。
絵を描く人はどんな成長過程でも、練習することが求められる
高校の時、僕は絵が上手くなりたかったんです。
実力はありませんでした。めんどくさがりで、絵の練習もあまり好きではなかったんです。それでも次に進みたいと思い、浪人して美大予備校に通って、デッサンをたくさん描きました。
1年後、やっとの思いで、デザインの大学に入学しました。
学生時代はとにかく楽しくて、毎日好きな絵を描いていました。アルバイトも始めて、ショッピングサイトをつくったり、映像制作を手伝ったり、アーティストのアトリエで働いたり、さまざまな創作に触れたりもしました。
そうこうしているうちに、卒業のタイミングがやってきまして。けど、ろくに就職活動をせず、しばらく定職にも就かなかったんです。
美大卒だとよくあることですよね。卒業後は、ずっとフリーランスとして活動していたんですか?
ええ、4年ほど。
フリーランスというと聞こえはいいですが、最初の1年くらいは絵に全く関係ないアルバイトをしていた程度で、プロのイラストレーターとはいえなかったんです。人より時間があることをいいことに、自由を謳歌してました。
その中、同人誌の制作にハマり、同人活動にすべてを賭けるようになったんです。同人誌が売れていくにしたがって、アルバイトの時間も減っていき、そして最後には同人誌ばかり作っていました。
一方で、次のなにかがやりたいという気持ちも強くなってきたんです。同人でなくプロのクリエイターとして活動したいと思い始めたんですよ。25歳になってね。で、そのタイミングになって気づいたんです。
僕の絵が、ものすごくヘタクソだってことに。
すでに同人界隈では活躍していたんですよね?
いわゆる壁サークルでしたね。それなりに売れてたと思います。知名度もそんなに低くはないですし。けど、プロの世界で活躍することと、同人で活躍することとでは、絵に求められることが違うんですよ。
周りを見ると、10代でも信じられないくらい上手な子がいっぱいいるわけですよ。彼らと肩を並べたくて、プロとして活動したかったから、その時になってはじめてちゃんと練習したんです。
フリーランスの後半の2年間は、僕の人生の中で一番絵が上達しました。
本の表紙やCDのアートワーク、広告のキャラクターイラスト…ありがたいことに、いろんな商業の案件に関わらせていただきました。プロのイラストレーターと名乗っても、恥ずかしくない程度のキャリアを作ることができました。
このまま行っても、人生としてそんなに悪くないと思っていました。しかしこの時もまた、次のなにかがやりたいと思ったんです。
4年間のフリーランス活動のあとに会社に入ったんですよね?
そうなんです。当時付き合ってた彼女と結婚したり、クリエイター活動として節目を迎えていたり。それで僕自身も、会社に入って大きい仕事に深く関わってみたいと思い始めていたんですよ。
そうしたら「いまスタッフ募集しているからどうよ?」って大学時代の先輩から誘いがあったんです。当時の僕は、すでにイラストレーターとしていろいろ描いていたから、そこはスムーズに決まりました。
入社したのは大手のソーシャルゲームメーカーです。27歳まで会社人としてまともに働いたことはありませんでしたから、とてもわくわくしていました。
最初に依頼されたのは、デフォルメされたキャラクターのデザインでした。ゲームで使うアバターの絵です。僕はそれまで、本の表紙とか音楽アーティストのカバーイラストとかいわゆる顔になる仕事を受けることが多かったんです。だからそれをお願いされた時、僕はそれをすごく単純作業だと思っていたんです。
しかし、これがまた思いのほか難しくって。
また描けなかったんですか?
ええ、全然描けなかったんですよ。フリーランスでプロとして活動していた時と、会社に入ってチームの一人として活動する時とでは、絵に求められていることが違っていたんです。
自分の思う「かっこいい」を追求しても「ゲームの世界観と合ってないから直せ」とか、「そのデザインだと仕様上バグがでる。単純に売れない」とか。最初は周りが自分についていけてないんだと自身に言い聞かせてましたが、次第に気が付きました。
僕の絵の実力が、不足しているということに。
既にプロとして活躍していても、まだそんなことが起こるんですね。
そうなんです。
職場で働いていた他のクリエイターの足をかなり引っ張っていました。リテイクばかり繰り返してしまって。物量を描いてるうちに、最終的にはある程度かたちにできるようになりましたが、既存のレギュレーションに沿って絵を描くことは自分でゼロからビジュアルを作るのとは全く違う難しさがあることに気づきました。
絵を描く人のためにサービスを作りはじめた
そういった経験、コンプレックスからでもありますが、他の人が考えた企画のイラストを描くよりも、僕自身が企画をつくりたいと思い始めたんです。
あーわかります。ソーシャルゲームみたいな案件をやっていると、末端の仕事じゃなく、企画からやりたいって欲求でてきますよね。
はい。もともと、同人サークルをやっていたというのもあって、そこでやっているような企画を会社の仕事としてやりたいという気持ちがあったんですよ。そんなことを考えているうちに、当時いた会社で事業改革みたいなものもあって、転職の機運も高まっていたんです。
僕に何かできることないかなって思いながら転職活動をしていたら、以前にもお仕事で関わりがあったピクシブに入社させてもらえまして。
僕は、プログラムなんか書いたことないし、ディレクターとしてのキャリアもない。自分でいうのはなんだけど、僕のキャリアをみて、面白そうな人だからとりあえず入れてもらえたみたいなポジションだと思っているんです。
ピクシブでは、最初から企画をやっていたんですか?
いえ、入社直後はデザイナーとして、バナー制作をしていました。当時社長だった片桐さんと話をして、入社3日後にはとあるプロジェクトに入ったのですが、色々あって結局リリースにはいたりませんでした。
そんな時、とある飲み会の席で、現社長の伊藤さんから「教育系のプロダクトをつくりたい」って話がでてきてて。教育系は、いまでもピクシブ社内でチラホラでてきてたんですけど、誰も実現できてなかったらしいんですよね。だから当時の僕も「ふ〜ん」ぐらいに思ってたんです。
けど、家に帰ってから、自分にもできることあるんじゃないかって思って、めちゃくちゃ考えたんです。絵が上達するためのサービスをピクシブが提供する。これって、どう考えても僕がやるべき仕事じゃないかって。
それからというもの、僕の過去の経験なんかも踏まえながら、どういうサービスにすればいいかずっと考えていたんです。
絵を描いている人にはいろんなレベル、色んな過程の人がいるじゃないですか。そのそれぞれの過程の中で、僕がかつて通ってきたように、次に進むために必要なことはなにか、ということを考えたんです。またそれで、今のインターネットでどのように表現すれば、一番良い学習体験が得られるのかを考えたんです。
その中で、僕が注目したのは「動画」でした。