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絵を描く人は、挫折を繰り返す — sensei開発の裏側(2)

イラストレーター出身で、現在はWebディレクターとして活動しているbanikuさん。その異色な経歴を活かし、イラスト講座「sensei by pixiv」の立ち上げと運営を担当しています。今回は、サービスの立ち上げのことやオンラインでのイラスト講座のあり方などを聞いてみました。 前半はこちら

初心者でも誰でも使えるイラスト講座を作りたいと思った

前回は、イラストレーターで積んだ経験を生かして、絵が上達するための新しいサービスを立ち上げようと決意した、という話でしたね。

はい。今のインターネット上のイラスト講座はワンポイントアドバイスが人気で、pixivやTwitter上で万単位でRTされたりしてバズってる姿をよく見かけます。 もちろん参考になるのも多いのですが、実際のところは「本当の初心者はわからないんじゃないか?」「そもそもその講座にどれほど再現性があるか?」ってことには疑問に感じる部分もありまして。ある程度、前提となる知識や技術を持っているからこそ、理解できるし有用なんじゃないかって。

だから、僕がサービスを立ち上げようとしたときは、「知識ゼロの人でも絵を始められるような講座にしよう!」と思ったんです。

これから絵を描いてみたい人たちも使えるサービスを目指したのですね。

絵を描いている人には、いろんなレベル、いろんな過程があるので、その中で「本当にユーザーはちゃんと学習できるのか?」「一番良い学習体験を得られるのは何か?」とかを熱心に考えました。

確かに、全ての絵描きさんにとってのサービスにするのは難しそうです・・・。

それで、結局辿り着いたのは、経験が全くない方でも決められた講座を受講し、課題をこなすことで効率的に早く上達できるイラスト学習コンテンツがいいな、と考えました。これなら、どんな絵描きさんにも有意義に使ってもらえるかもしれない、と。

NHKのEテレや任天堂のような、わかりやすくてフレンドリーな見せ方の動画コンテンツにして、絵の基礎的な技術はしっかりと抑えつつも、個性や自己表現は自由にできるような、そんなインタラクティブなサービスを目指そうと考えたんです。

インターネットだからできるイラスト講座

インターネットだからこそのサービスは何かってことを考えたのですね。

そうなんです。このサービスの見せ方や学び方には、僕の実体験を参考にしている部分があるのですが、最短で効率よく絵が上手になるには、やっぱり反応が返ってくるというのがいいんだなと思っています。反応が返ってくることが、インターネットでのイラスト講座の良さかなと。

僕自身の経歴は、美術大学に通い、プロのイラストレーターになり、そして今のピクシブに至るわけなんですが、僕はプロになってから初めて、ネットの絵の世界というものにガッツリ触れて驚いたんです。

「こんなに表現が自由でいいんだ、こんなにいろんな反応がくるんだー!」って。

反応があったら嬉しいし、励みにもなりますよね。

僕自身、実はあまりデッサンとかが得意ではなくて、かなりコンプレックスを持ってた時期もあったんです。そのコンプレックスを克服できたのが、まさしくネットのおかげで。

今までは鉛筆やカンバスに束縛されていたのが、表現方法も表現する場所も広がって、リアクションやフィードバックも貰えるようになって、どう描けばいいかの見方も変わって。それで、このネットの良さを生かして、みんなの成長した経験を集約したサービスを作ったらきっと絵を描くのがもっと効率的に上達できると考えたんです。

表現方法と学び方が自由であるという部分が、まさしくインターネットだからこそですね。

はい。senseiのサービスにはpixivのコミュニティ的な部分と、機能の教育的な部分の2つの良さがありまして。今後はこの2つの部分において、色んな見せ方をしていきたいと考えています。

例えば、機能的には自分の力をできるだけ客観的に測れるような仕組みをもっと強化していきたいと考えてます。

今あるサービスで「お題」というものがあるのですが、1つの課題に沿って絵を描くことを継続的にやっていくと、だんだん同じ課題に対しての上達具合が見えてくるんですよね。あとは、他の人の描き方をみて、自分の描き方の参考にしながら、色んな描き方を試してみたり。そうすると、「ああ、こう描けばいいのか!」という新しい発見があったりして。見え方の違いを実感として持つことができてしまうんです。

自分の感覚だけじゃわからない部分は、他の人の絵を見て学んでしまうんですね。

感覚だけでやっていたところが実感としてちゃんと分かるようになるというのがやはり上達法の一つだと思っています。 また一方で、やっぱり、ずっと使い続けてもらえるサービスにするためには、ユーザーが「もっと描きたい。もっと上手になりたい!」という思える仕掛けが必要なんです。その仕掛けにコミュニティ面を活用していきたいなと考えています。

例えば、どういう仕掛けを作っているのですか?

僕自身のイメージなのですが、senseiはトレーニングジムのような「場所」にしていきたいと考えています。senseiの各テーマが筋トレ用具のようになっていて、そのテーマに参加している人達がコミュニケーションできる場所を作りたいなぁと。

お絵描きを、コミュニケーションしながら学べるようにしたいのですね。

ジムで筋トレ用具を選びながら、「このトレーニング器具イケてるよね」「新しく加わったアレちょっとよくわかんないよね」とかをジムに通っている人同士で話しながら使いますよね。

ジムの筋トレ用具のように「身体の描き方」や「ポーズマニアックス」のような機能を揃えていって、ユーザー同士が盛り上がって話せるって面白いだろうなと思ったんです。

これまでは、そういうのは学校とか物理的な場所に縛られていたものだけど、ウェブ上にそういうものがあったらすごく素敵だなと僕は思って。

いいですね。同じ目標に向かって一緒に盛り上がるからこそ楽しくなるし、絵を描くことの面白さももっと分かるようになるんですよね。

そうなんです。上手い人も下手な人もいて、「上手になりたい」とか「こういう絵が描きたい」とかの目標にみんなそれぞれ励まし合いながら向かっているサービス作っていきたいなと考えています。

大切なのは再現性。そして自己表現が自由にできること。

senseiは、banikuさんの想いや考えが詰まったサービスなんですね。

僕がこだわっているのは、やっぱり「再現性」。基礎技術はある程度再現性があるんです。 一方で、自己表現や個性のようなものは多様性を尊重したいとも考えているので、「ユーザーが本当に絵が上達できること」「学び方や表現については多くの選択肢があって分かりやすいこと」を念頭に置いた講座を目指しています。

実は、チームで紙に書いて、「これできたら確かに世界変わるかも」みたいに盛り上がる案もあるんです。当然、とても大変ですが(笑)。

「世界変わるかも」ってほどまでなると、ほんとサービスを作っていくの面白いですよね!

今までは書籍上で「こういうふうに教えます」「サンプル見ながらこの通りに書いてください」のような学び方がもう何十年、何百年も前から存在していたんですが、インターネットとコンピューターが加わったがゆえに、見たことない何かが始まろうとしている感じがするんですよね。

だから、ただイラスト講座を盛り上げますってだけ言うとチープに聞こえちゃうかもしれませんが、本当にこのサービスを作っていくのが面白いんです。

世の中の絵描きみんなが求めているのは画力、まさしくこれなんですが、そこにアプローチしながら盛り上げられるってだけで、僕はすごいことなんじゃないかって思っています。 今後も、色んなクリエイターを巻き込みながら、どんどん企画を進めていって、テクノロジー的にも新しいことに挑戦していきたいと考えています。

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baniku
2015年ピクシブ株式会社にデザイナーとして入社。前職イラストレーターというキャリアを活かし、イラスト学習サービスsensei by pixivの立ち上げを行う。現在はイベントの企画・プロデュースや教育機関などとの連携などイラストを描く人がより輝く世界を実現するために奔走中。