2017年9月10日、pixivはサービス開始から10周年を迎えたことを記念し、9月9日に10年間の運営・開発史について語るイベント「pixiv MEETUP -10th Anniversary-」を開催しました! 本イベントでは、CEOやCTO、エンジニア、プロダクトマネージャーなど様々な立場のメンバーが、これまでどのように考え、どのようにチャレンジしてきたのか技術的知見を交えながら発表を行いました。
変わりゆくpixivのユーザー層
最初のセッション「pixivの10年 - プロダクトの変遷と進化の歴史」では、まずピクシブ代表伊藤が登壇し、現在のpixivのユーザー層について発表しました。
「pixivは現在会員ベースで2,800万人の登録者数となり、おそらく年内にも3,000万を超える予定です。特にこの5年間で海外からの会員登録が増えており、1日約2万人の新規登録者数のうち約75%がアジア中心とした海外で占められています。日本の漫画・アニメ・イラストといった文化的なバックグラウンドを強みとして、一層グローバルに邁進していきます。」(伊藤)
企業理念の変化、ベニヤサーバ誕生(2007~2010年)
続いて、執行役員の店本が登壇し、pixivリリース直後の苦労や、現在のピクシブの企業理念が生まれた経緯について語りました。 創業当時のインターネットサービスの多くは、大量の情報を集めて処理することが目的となっており「大量のイラストが集まるサービスを作ろう」という理念のもと、pixivはスタートしました。
「その後、企業理念を大きく変える『ピクシブたん漫画』という作品に出会いました。『絵を描くことが楽しい』という気持ちが一番大事だというこの作品をみて、気付かされました。pixivは多くのイラストを集めて処理するということをやるべきなのか。いや、そうじゃない。もっともっと『お絵かき』とか『創作活動』が楽しくなる場を作る、それを追求すべきじゃないか?という話になり、pixivの理念が変わりました。」(店本)
店本はインフラエンジニアであり、pixivの要であるサーバをpixivリリース時から担当していました。最初はオフィスの一角に置いたメタルラックに、ベニヤ板を敷いて、むき出しのパーツを積み上げるというスタイルでサーバを運用しており、「(サーバ冷却のため)冬でも冷房を切れず、凍えるような毎日でした」と話し、会場が笑いに包まれました。
「2008年にはクルークからピクシブへと社名を変更、同年には広告配信を開始し、2009年には有料会員サービス『pixivプレミアム』をスタート、さまざまな試行錯誤を経てpixivは立ち上げフェーズから成長フェーズへと変わっていきました。」(店本)
グロースチーム発足、登録者数増加(2011~2013年)
続いて、BOOTH・pixivFACTORY・pixiv PAYのプロダクトマネージャー重松が登壇しました。
「pixivはユーザーインターフェースや機能の改善を繰り返していく中で、2010年頃から広告事業やプレミアム会員事業などの収益を伸ばし、成長フェーズへと移り変わっていきました。しかし当時は感覚だけに頼る機能追加であったり、Twitterの反応を見てリリースした機能の良し悪しを判断していました。 これでは成功も再現性がないし、失敗した経験も蓄積されませんので、成長が鈍化するのではないかという危惧を持ちました。そこで当時Facebookが取り組んでいた『ユーザー獲得チーム』にならい、2012年1月頃に新規会員登録数やプレミアム会員数、広告収益を伸ばすことを目的にした『グロースチーム』を発足しました。これによってそれまでかなりないがしろにされていた数字の計測やデータの解析が、この時期に急速に整理されるようになりました。デイリーで数字報告や検証をしたり、PDCAサイクルを高速で回すことで、大小さまざまな施策をしました。」(重松)
「例えばログイン画面を改修して新規登録やログインの動線が目立つようにするといった変更など、大小さまざまな改善を積み重ねていきました。その結果、2011年の新規登録者は1日約3,000人前後でしたが、2014年には約1万3,000人と4倍近く増加しました。プレミアム会員向けには、人気順検索や、ユーザーが投稿したイラストをどんな属性の人が見ているのかを解析できるアクセス解析機能などをリリースし、2011年から2014年にかけてプレミアムユーザー数は8倍以上の成長を遂げることができました。」(重松)
「成長に伴って企業タイアップ案件も増え、受賞イラストを使用した商品が店頭に並ぶケースも増えてきました。出版社との関係を築いたのもこの時期です。自社広告配信サーバー、さまざまな広告配信事業者との連携を進め、広告収益も大幅に増加しました。
海外からのアクセスも非常に増え、2008年には全体の約5%だったのが、2013年には約13%以上になりました。グロースチームの発足によって感覚だけに頼らない機能追加改善ができるようになり、一層pixivの成長や新サービス作りに生かす地盤がこの時期に整いました。プレミアム会員事業や広告事業もブラッシュアップされ、収益化が安定してきました。」(重松)
新規サービスを生み出す4つのキーワード(2014~2017年)
2014年からメイン事業であるpixivが成長するのはもちろんのこと、新規事業が増えていきました。新規事業立ち上げの経緯について執行役員の東根が登壇し、キーワードとして「クリエイター」、「コミュニケーション」、「テクノロジー」、「コンテンツ」の4つを挙げました。
①クリエイター
ピクシブで活動されているクリエイターのメインの活動は絵を描くことですが、絵を描いてpixivにアップロードするのが活動のすべてではありません。pixiv以外の活動でも、クリエイターとそのファンのみなさまを支えていくピクシブとして「もっと取り組むべきことがある」と語りはじめました。
「クリエイターの多くはコミックマーケットで自らの同人誌やグッズを販売しています。ネット上でも、彼らのこうした活動を支えたいと思い、そこで始めたのがネットショップの『BOOTH』です。
また、クリエイターが個人でグッズや同人誌を小ロット発注するのはハードルが高く、多く作りすぎると在庫リスクがあります。そこでデータをアップロードするだけでグッズを作れて、1個から発注できる『pixivFACTORY』をはじめました。
さらにリアルなイベントでの決済の煩わしさを解決するため、この夏、スマホ決済アプリの「pixiv PAY」をリリースしました。コミックマーケットでは個人間同士でお金のやりとりが発生します。買う側の参加者もクリエイターに配慮しておつりが出ないように小銭をたくさん持っていくという習慣があります。そういったやりとりや現金の保管がもっと楽になればよりイベントが楽しくなると考えてリリースしたのが『pixiv PAY』です。
また改めて考えると、pixivはクリエイターとファンのコミュニティです。多くのクリエイターとファンが集まって交流しもっとかかわれたら、もっと面白くなるのではないかと考えて『pixiv FANBOX』が生まれました。」(東根)
②コミュニケーション
2つめの「コミュニケーション」について、「今の気持ちを絵に描いたり、気軽にコミュニケーションできるニーズが増えている」と語りました。
「クリエイターは1枚のイラストに数時間、あるいは数カ月かけることもあります。そこで絵を描いているときにネットで気軽に話したり、ライブ配信するニーズがあります。
また、絵を描いていない時間も、創作が好きなコミュニティの間で繋がりを持ち、コミュニケーションしたいというニーズがあります。最近流行りのマンガやアニメ、ゲームや音楽の話をするなど、イラストが好きな人同士が集まることで生じる繋がりが存在します。
そういったクリエイター同士やファンとの間で生じる、さまざまなコミュニケーションのニーズに対応したいということで、2015年には『pixiv Sketch』を、2017年には『Pawoo』をリリースしました。」(東根)
③テクノロジー
3つめの「テクノロジー」は、世界有数の画像共有サービスとなったpixivならではの画像処理技術のサービス化について語りました。
「pixivにはおよそ7,000万の作品が投稿されています。ユーザーの利便性を高めるために画像処理技術を追求し続けて、他社にない技術になったと自負しています。この技術はpixiv以外にも役に立つのではと考えました。そこで画像処理の技術を事業化し、さくらインターネットと共同運営しているのが『ImageFlux』です。」(東根)
④コンテンツ
4つめの「コンテンツ」は「漫画家のサポート」だと語りました。
「pixivはイラストだけでなく漫画家になるチャンスを広げたい。好きなことを好きなだけ書いたら漫画家になれた……そんな人を増やしたい。あるいはプロになれなくても、一人でも多くの人に描いたままを見てほしい。そういう世界を作り出したいと考えて作ったのが『pixivコミック』です。」(東根)
pixivの10年間
最後に代表の伊藤が再び登壇し、pixivの10年間の軌跡についてまとめました。 「この10年間、本当に数多くのユーザーの皆さんに支えていただいて、ここまで成長することができました。これまでの10年も数々トライしてきましたが、より輝かしい未来を作るためにも一層の挑戦を続けていきたいと思います。」(伊藤)
→ 次回はセッション「「新規事業はどのように生まれたのか? – ピクシブでプロダクトを創るということ」」の内容をご紹介します。(※ 近日公開予定)
(執筆者:安藏靖志)