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ピクシブにおける「ビジョン」の取り扱われ方

プロダクト開発イネーブルメント部マネージャーのminamitaryです。

PIXIV DEV MEETUP 2024では、ピクシブにおける「ビジョン」の取り扱われ方 というタイトルでメインセッションを担当しました。

スライドはイベント当日に公開されていますが、スライドだけでは伝わりづらい部分も多くなっています。

本記事では、時間の関係でカットせざるを得なかった内容を補足しつつ、セッション内容を紹介していきます。

2020: プロジェクトシェルパ

まず背景として、2020年のピクシブでは「社員数の増加」「プロダクトの増加・多角化」「個々のプロダクト規模拡大」といったことが同時進行していました。そこに対してさらに「新型コロナウイルスの感染拡大」という出来事が重なります。人数・並列数が増加するなかでリモート環境への強制移行が同時に進み、プロダクトづくりの難易度が著しく高まるような状況でした。

そのタイミングで私が携わっていたチームが「プロジェクトシェルパ」です。

プロジェクトシェルパはVP of Productを筆頭とする部署横断のタスクフォースで、プロダクトマネージャーを中心とするシニアメンバーメインに組織されました。私自身も事業部門でUXリサーチャーとして動きつつ、ここにも携わっていたという形です。

プロダクトづくりを「険しい山に登るような行為」と捉え、山の案内人「シェルパ」のような立ち位置で社内をサポートして回る。そんな動きをこのチームでやっていました。 その際スローガンとして掲げていたのが、「ピクシブらしい開発を誰でもできるように。」という言葉です。

この、「ピクシブらしい開発」とはどのようなものかと思われるでしょう。

ここについては、プロジェクトシェルパとしての活動を具体例として紹介する方が伝わりやすいと思います。プロジェクトシェルパは社内の開発現場に対する個別の支援はもちろん、そこから得られた知見を元に仕組みを作って社内に提供するようなこともやっていました。

その一つが「インセプションデッキ」です。

インセプションデッキ

「インセプションデッキ」は、プロジェクトを起案する際に概要をまとめ、チームメンバーやステークホルダーとの間で共通認識とするためのドキュメントテンプレートです。もともとピクシブでは、アジャイル開発の現場で使われているものに手を加える形でテンプレート化・運用されている状態にありました。そこに対し、プロジェクトシェルパとしてさらにアップデートを加えていった形となります。

その際、重視していたのは「何のために取り組むか」を明文化するという部分です。この言葉は、本記事の中で何度も登場します。

ピクシブで運用されている「インセプションデッキ」のテンプレートを簡単に紹介すると、大きく以下の4段階で構成されています。

まずはDraftとして、どういったアイデアや背景がプロジェクトのベースになっているのか。それからWhy、なぜ、何を目的としてプロジェクトをやるのか。その後Whatで「具体的に何をするのか」、Howで「進める上での懸念はあるか」、といった流れで記述していく形のテンプレートとなっています。

時間の都合上イベント当日のセッションでは割愛しましたが、Whyの部分は「誰に意味を提案するか?」「どんな意味を提案するか?」といった問いに答える形式となっています。

実際のところはプロジェクトシェルパだけですべてを整備するのではなく、開発チームの方々に実際に使ってもらいつつ、Notion上のテンプレートやドキュメントを一緒に育てていくようなイメージで進められていました。

その取り組みのなかでも、「二つめの”Why”、すなわち“何のために取り組むか”の部分を大事にしましょう・しっかり明文化しましょう」というところに重点が置かれていました。

シェルパガイドブック

そう言われても、「実際のところどのようにプロジェクトを進めていくか」という部分こそが難しいと思われるかもしれません。ドキュメントテンプレートだけあっても、じゃあ「あとはやるだけ」とはなかなかならないと感じる方も多いでしょう。

そこに対して手を打つ形で作られたのが「シェルパガイドブック」です。

先ほどお話しした通り、プロジェクトシェルパでは、プロダクトづくりを「険しい山に登るような行為」と捉えていました。

山を登る間に目指すべき場所を見失ってしまったり、障害にぶつかって先に進みづらくなったりといったことが、時には起こってしまうものです。

険しい山に登る際にこの「シェルパガイドブック」を手元に忍ばせておいてもらい、困った時に開くと「こうするともっとうまくいくかもよ」と解決方法を提案してくれるような、そんなコンセプトでこのドキュメントを作り、社内に向けて提供していました。

このガイドブックの中でも、先ほどのインセプションデッキでも触れた”Why”の部分、「なぜ山に登るのか」「山登ることで何を得たいのか」といった問いに対して、きちんと向き合うことの重要さを説いています。

そこに対するアンサーは、ビジネスゴールであることももちろんありますが、開発チームにおいては「ユーザーに対してどういった価値・意味を提供したいか」といった観点を基調として運用されています。

こちらのドキュメントは長らく社内に閉じたNotionで運用してきましたが、この度、この場を利用して、社外からもアクセス可能な場所に配置させていただきました。

pixiv.notion.site

こちらを読んでいただければ、ピクシブらしいプロジェクトの進め方についてより理解が深まるのではないかと思っています。

ビジョナリーシート

先ほど「インセプションデッキ」というドキュメントテンプレートについてお話ししましたが、ほかにも「ビジョナリーシート」という名前のドキュメントテンプレートも社内に向けて提供しています。耳馴染みがないと思いますが、こちらはピクシブ独自で作成・運用されているものです。

このビジョナリーシートはその名の通り、「ビジョン」を扱うドキュメントテンプレートです。プロジェクトのスコープよりもさらに広い視点でビジョンを記述し、人に伝える用途で作成されました。

当日のセッションでは時間の都合上割愛してしまいましたが、少しだけ中身について触れておくと、以下の3つの問いに対して答えていく形式のドキュメントとなっています。「X年後」の部分は対象とするプロダクトによって調整する形で、3年や5年を想定して書かれることが多いです。

  1. プロダクトとその周辺の世界観はX年後どうなっているか?
  2. このX年間で腰を据えて取り組むべきイシューはなにか、その理由は?
  3. 結果として、プロダクトそのものにどういう差分が生じているか?

「インセプションデッキ」と「ビジョナリーシート」はそれぞれ扱うスコープが異なるため、併用することが前提の設計となっています。

「ビジョン」

ここまでに紹介した事例から、「何のために取り組むか」という問いと向き合うことを重視し続けていることが伝わるのではないでしょうか。それこそが、プロジェクトシェルパにおいて「ピクシブらしい開発」として掲げていたものです。

このセッションのタイトルに掲げている「ビジョン」という言葉は、これが明文化されたものを指す言葉であると思ってください。

明文化そのものは手段でしかありません。重要なのは、開発者それぞれが日々この「何のために取り組むか」について考えているという状態です。その状態が前提としてあって、明文化され、共有認識となることで、フルリモートな環境においても我々らしい開発ができる。そういった考え方をしていました。

2023: ミッション・ビジョン・バリュー刷新

時は進んで2023年、ピクシブはミッション・ビジョン・バリューを刷新しました。同年9月に開催されたPIXIV MEETUP 2023にて新しいMVVがお披露目されています。

www.pixiv.co.jp

2020年の話をする際に触れた「会社規模の増大」も、MVV刷新の背景の一つとしてありました。その後、社員数の増加スピードはさらに加速していきます。組織だけでなくプロダクトの規模についても同様に拡大が進む中で、立ち上げられたのが「MVV刷新検討プロジェクト」でした。

このプロジェクトは、経営陣もメンバーに含まれる部署横断のタスクフォースを主体として進められていきました。その中で私は、刷新検討プロセスを設計し、リードする役割を担っていました。

本セッションのタイトルは「ビジョンの作り方」ではなく「扱い方」であるため詳細は省きますが、ミッション・ビジョン・バリューそれぞれの検討プロセスについて、さまざまな工夫を凝らしています。中でもビジョンの刷新検討プロセスは、まさしく会社を主語とした「何のために取り組むか」を探求するようなプロセスだったと思います。

結果的に、出来上がったビジョンがこちらです。

特徴的なのは、”something”、「何か」という言葉を使っている部分にあると私は思っています。

さまざまなプロダクト・サービスを手がけるピクシブが、それらに「何のために取り組むのか」。そのアンサーとなるのがこのビジョンです。にもかかわらず、このビジョンにおいては”something next”「次の何か」と、それが何であるかをあえて明言していません。

検討するプロセスの中でも議論が白熱したポイントですが、結果として読み手、すなわちピクシブのメンバーそれぞれの解釈に委ねるという、難易度の高い選択を下した形です。

「創作活動を、もっと楽しくする。」というミッションに比べて抽象度が高く、考えられる幅が広いことが、そういった背景を知らずとも伝わるのではないでしょうか。

度々用いているこの「何のために取り組むか」というキーワードですが、その対象には様々なワードが入ります。

さきほど紹介したのは、ピクシブ株式会社の「会社としてのビジョン」になります。これは「何のために”会社としての活動”に取り組むか」という問いに対するアンサーであると言えます。

ピクシブとして開発し、提供しているプロダクトそれぞれについては、「何のために”プロダクトづくり”に取り組むか」という問いが立てられます。

さらに、プロジェクトシェルパの例にあるように、「何のために”プロジェクト”に取り組むか」という問いもまた立てることが可能です。

これら3つを並べた上で。本来会社としてのビジョンは、プロダクトづくりやプロジェクトに対し、方向性を明確に定めるものであるべきなのかもしれません。しかし、一番上段の会社としての問いは、先ほど述べた通り、我々ピクシブメンバーに明確な答えを与えてくれません。

「何のために取り組むか」という問いに自ら向き合うところにこそ「ピクシブらしい開発」の核があると、プロジェクトシェルパは考えていました。

もちろん、そういった考えから新しいコーポレートビジョンに解釈の幅が広く与えられたわけではありません。私はあくまでプロセス設計のところを受け持っただけです。あくまで「結果的にそうなった」というだけではありますが、このように並べると、我々らしいビジョンになったのではないかと私は思っています。

PIXIV MEETUPへ

前の項目でも触れた通り、新MVVお披露目の場も兼ねて2023年に開催されたイベントが「PIXIV MEETUP 2023」です。また、2024年に開催され、本セッションを披露する場にもなったのが「PIXIV DEV MEETUP 2024」です。

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招待制で開催されたこれらのイベントも、これまでの話と決して無関係ではありません。

たくさんのピクシブメンバーが登壇したり、ゲストの方をお招きして直接もてなしたりといった趣旨のイベントでしたが、その際「我々がどのようなことに取り組んでいるのか」だけでなく「その裏にどのような想いがあるのか」というところをセットで伝えるという部分を、私を含む我々イベント運営チームでは重要視していました。

その場で伝えられる想いもまた、それぞれにとっての「何のために取り組むか」に対応するものとして解釈できるのではないでしょうか。それら個々の想いを「ビジョン」という名前で呼び表すことはピクシブにおいても稀だったりはしますが、そういったカルチャーがあることを社外の方に広く伝える手段として、イベントはこの上ないものであると感じます。参加者の皆さまに、そこを含めお楽しみいただけていたなら幸いです。

今後も様々な方法で、「ビジョン」の取り扱われ方を追求していきたいと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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minamitary
2015年中途入社。エンジニアリングとUXリサーチの二足わらじで、ユーザーインタビューからユーザー行動分析・データ活用基盤の整備・ワークショップ実施などを広く担当。